1.調査名称 |
宮町遺跡第30次発掘調査 |
2.調査地 |
滋賀県甲賀郡信楽町大字宮町 |
3.調査面積 |
1,270平方メートル 第1トレンチ500平方メートル
第2トレンチ270平方メートル
第3トレンチ500平方メートル |
4.調査期間 |
平成14年5月30日〜平成15年1月中頃(予定) |
5.調査主体 |
信楽町教育委員会 教育長 藤井 克宏 |
6.調査指導 |
紫香楽宮跡調査委員会
委員長 小笠原 好 彦 滋賀大学教育学部教授
副委員長 櫻 井 敏 雄 近畿大学理工学部教授
〃 栄 原 永遠男大阪市立大学大学院文学研究科教授
委 員 高 橋 誠 一関西大学文学部教授
〃 黒 崎 直 富山大学人文学部教授 |
7.調査担当 |
信楽町教育委員会教育委員会 文化財調査室
室 長 雲林院 治夫
係 長 鈴 木 良 章
文化財技師 高 橋 加奈子(調査担当)
主 事 雲林院 武士 (事務担当) |
8.調査位置
調査地は、昨年発掘調査を実施した29次調査の西側になり、奈良時代の遺構配置では、「朝堂(ちょうどう)」の東西脇殿間の建物中軸線から西寄りに相当します。
9.調査の概要
昨年度の調査(第29次調査)は、昨年11月の記者発表以降も「朝堂」北側の地域を中心に3月まで継続して実施しました。
また、今回の調査(第30次調査)は、29次調査西側の遺構の広がりを確認するため実施したので、29次調査の記者発表以降に得ることのできた調査成果とあわせて報告します。
主な検出遺構
建物I ・・・ 桁行9間(けん)(37.1m)×梁行4間(11.9m)
30次調査の第2トレンチで東西3間×南北4間を確認した東西棟の建物で、昨年度の第2トレンチで確認した建物氓フ西半にあたります。
庇(ひさし)と梁行(はりゆき)の柱間寸法は3m弱(10尺)、身舎(もや)の桁行寸法は4.5m弱(15尺)を測り、柱の線形は一辺約1.Om、柱の痕跡は直径約35cm弱あります。
この建物は、昨年の調査で推定したとおり東西脇殿の中軸線上に配置されていることから朝堂区画の主要な殿舎(でんしゃ)と判断できます。
建物III … 桁行7聞(24.9m)x梁行5間(14.9m)
30次調査の第3トレンチ北東隅で検出した建物で、29次調査で建物の東半(桁行3間×梁間5間)を確認していることから、桁行7間(84尺)×梁間5間(50尺)の大きさを測る7間二面の東西棟の掘立柱建物と推定できます。
桁行寸法は3.56m(12尺)間隔、身舎の梁間寸法は2.48m(8.3尺強)、庇の梁間寸法は3.71m(12.5尺)を測り、柱の掘形は一辺約1.1m、柱の痕跡は直径約35cm弱あります。
この建物の注目すべき点は、桁行と梁間の柱間寸法が普通よりも長く、建物の奥行が15m近くあります。
これまでの紫香楽宮関連遺跡の調査でもこれだけ奥行の深い建物は見つかっていないことから、朝堂区画外の北方にも主要な殿舎があったことを示しています。
他の遺跡の類例から考えても、平城宮跡の聖武朝の内裏正殿(内裏II・III期)(7間×5間・東西27m×南北15m)や長屋王邸(I・II期)の正殿(7間×5間・東西23.4m×南北15m)、長岡宮跡の推定東院正殿(7間×5間・東西21m×南北18m)などに限られ、いずれもが当該建物の立地する区画の正殿であることからも注目されます。
また、建物位置が「朝堂」の中軸線よりも約23.2m(約78尺)西寄りに配置されていることから、朝堂区画建物と並存していたか、さらに検討する必要があります。
塀I ・・・ 南北12間(35.64m)以上
29次調査の第3トレンチ中央で検出した塀跡で、朝堂北塀の北側から柱列が伸びています。
柱間隔は3.0m弱(10尺)を測り、柱の掘形は一辺約1.0〜1.2mあります。塀の方位は座標北から約3度西に傾き、朝堂北塀の朝堂中軸線よりも西へ4.88m(約16.5尺)のところへ位置します。(建物IIIの南北軸で朝堂中軸線までの距離を測ると5.72m(約19尺))
塀II ・・・ 南北3間(5.94m)以上
30次調査の第3トレンチ西半で検出した塀跡で、朝堂北塀の北側から柱列が伸びています。 柱間隔は3.27m(11尺)を測り、柱の掘形は一辺約1.0mあります。塀の方位は座標北から約4度西に傾き、朝堂北塀の朝堂中軸線よりも西へ44・64m(約150尺)のところへ位置します。
l0.ま と め
1)朝堂区画のプラン
29・30次調査で紫香楽宮の朝堂院を構成する地区の調査がほぼ完了しました。
今回の区画に類似した建物配置をもつ平城宮の馬寮(めりょう)東方東区の遺構(「西池宮」の有力な推定地)では、建物Iが後殿の場所に相当することから区画内の正殿建物が建物Iの南側にあることも想定し、30次調査では第1トレンチを設定しましたが、調査ではその痕跡は確認できませんでした。
従って、現時点では、紫香楽宮の朝堂院の建物構成は、長大な朝堂を東・西に、この2堂の間に東西建物を「コ」字型に配置し、中央には大きな空間を設ける形式であったようです。
2)計画性のある建物配置
朝堂院区画やその周辺で確認された建物位置や塀は、朝堂院中軸線を基準に10尺の倍数で配置されていることが推測でき、紫香楽宮造営に際して、計画性を持って設置されたものと考えられます。
但し、遺構が近接している部分なども見られることや建物の方位が大きく2つのグループに分けられることから、全てが同時に設置されていたかは疑問があります。
太文字が建物の方位が2度未満のグループ、細い文字は方位が3〜4度のグループ
遺構名称
| 遺構番号
| 方 位
| 建物規模
| 遺構方向
| 備 考
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建物I
| SB292001
| NO度 32′W
| 7間四面
| 東西
| 桁行125尺×梁間40尺
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建物II
| SB292003
| N1度 53′W
| 7間四面
| 東西
| 桁行90尺×梁間40尺
|
朝堂北塀
| SA292003
| N1度 40′W
| 22間以上
| 東西
| 柱間10尺等間
|
西脇殿
| SB28193
| N3度 20′W
| 25間四面
| 南北
| 梁間40尺×桁行378尺?
|
東脇殿
| SB291001
| N0度 48′W
| 25間四面
| 南北
| 梁間40尺×桁行378尺?
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建物III
| SB30006
| N4度 05′W
| 7間二面
| 東西
| 桁行84尺×梁間50尺
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塀I
| SA293001
| N3度 36′W
| 12間以上
| 南北
| 柱間10尺等間
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塀II
| SA303026
| N3度 51′W
| 3間以上
| 南北
| 柱間11尺等閉
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3)朝堂院北区画の存在
今回新たに朝堂北塀の北で主要殿舎の規模に相当する建物。が確落されたことから、朝堂院区画とは別の区画の存在が考えられます。
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