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サカイ遺跡・平地山遺跡の調査

説明文遺跡の位置と周辺地形(1:25,000)トレンチ配置図

香芝市教育委員会
奈良県立橿原考古学研究所
2003年9月13日(土)

B地区完掘状況(サヌカイト採掘坑が複雑に切り合っている)

遺跡の概要

 香芝市田尻に所在するサカイ遺跡・平地山(たじりひらちやま)遺跡は、後期旧石器時代〜弥生時代にかけての石材原産地遺跡です。

 サカイ遺跡は「田尻2号遺蹟(たじりいせき)」として古くから知られていましたが、旧石器文化談話会の継続的な踏査により再確認された遺跡です。また、サカイ遺跡の西側に位置する平地山(ひらちやま)遺跡は、1988年に発見されています。2つの遺跡は谷を挟んだ東西の尾根上に立地しており、背後には景勝地・屯鶴峯(どんづるぽう)を控えています。平成15年1月から(仮称)智辯学園(ちべんがくえん)奈良カレッジ小・中・高等部新築工事にともなって試掘調査をおこなった結果、当該地において後期旧石器時代〜弥生時代にかけての遺構・遺物が眠っていることが判明しました。この試掘調査に基づき、本年4月から県立橿原考古学研究所の協力を得て発掘調査を実施しており、現在継続中です。

調査成果

(1)遺構

A地区

局部磨製石斧出土状況(A地区)

 A地区(平地山(ひらちやま)遺跡)では複数の土坑が検出されていますが、これらが「サヌカイト採掘坑(さいくつこう)」であるかは判然としません。これらの遺構の中からは、剥片(はくへん)や砕片(さいへん)(石器製作時の残滓(ざんし))が多く出土する傾向が認められます。また、第1遺構面では拳大〜人頭大の礫を集めた集石(しゅうせき)が検出されました。

B地区


B地区サヌカイト採掘坑

 

サヌカイト製大型剥片出土状況(B地区)

 B地区(サカイ遺跡)では「サヌカイト採掘坑(さいくつこう)」が、複雑に切りあうかたちで検出されました。これらの遺構を掘りあげた結果、遺構の下底はきわめて起伏に富んでいることが明らかとなりました。しかし、採掘坑はA区側に向かうにつれ少なくなり、調査区の西端では全く認められません。また、きわめて大形・厚手の剥片(はくへん)が4枚並んだ状態で出土した遺構もありました。まれに凹基式石鏃(おうきしきせきぞく)や弥生土器の出土をみることから、これらの遺構は縄文時代一弥生時代のものと考えられます。このほか、第1遺構面では炭がつまった焼土坑(しょうどこう)が検出されています。

焼土坑(B地区、炭がつまっている)

弥生土器出土状況(C地区)

C地区 全体の約4分の1が調査完了していますが、B地区と同様に「サヌカイト採掘坑(さいくつこう)」が多数検出されています。採掘坑は重複著しく、約2メートルの深さを測る場合もあります。土坑からは多くの剥片(はくへん)・石核(せっかく)(石器製作時の残滓(ざんし))が出土し、まれに弥生土器片を含んでいます。

D地区 調査地の大半が谷部と丘陵斜面に当たっており、谷奥部と西側斜面において「サヌカイト採掘坑(さいくつこう)」が検出されています。「サヌカイト採掘坑」の中には凹基式石鏃(おうきしきせきぞく)が出土したものもあり、縄文時代〜弥生時代の遺構と考えられます。また、谷部は近世(江戸時代)には谷水田として利用されており、ため池や石積みが検出されています。

A地区出土の石器(上段左4点が有舌尖頭器、下段左隅が石斧)

(2)遺物

 本年1月からはじまった試掘調査ではコンテナ約300箱、4月以降の本調査では約800箱の遺物が出土しており、今後も増加する見込みです。遺物のほとんどを占めているのはサヌカイトの石器類で、剥片(はくへん)や石核(せっかく)など、石器製作時に生じた残滓(ざんし)の多さが特筆されます。これはサヌカイトの豊富さを物語るもので、遺跡のある丘陵の基盤(大阪層群(おおきかそうぐん)と呼びます)にはたくさんのサヌカイト礫が含まれています。今のところ、旧石器時代にさかのぼる「採掘坑(さいくつこう)」は確認されていませんが、縄文時代以降になると活発な採掘活動がおこなわれたものと考えられます。

B地区出土の大形剥片

 出土遺物の多くは残滓であると述べましたが、まれに加工を施した石器も見つかります。ナイフ形石器縦長剥片(たてながはくへん)、掻器(そうき)など後期旧石器のほか、石鏃(せきぞく)(石の矢尻(やじり))や楔形石器(くきびがたせっき)など、縄文時代以降の石器も出土しています。とくに、A地区で出土する有舌尖頭器(ゆうぜつせんとうき)、局部磨製石斧(きょくぶませいせきふ)、尖頭器(せんとうき)は縄文時代草創期(そうそうき)の資料で、二上山北麓遺跡群でまとまって出土したのははじめてです。また、熱をくわえることでサヌカイト礫を分割した資料(熟破砕礫(ねつはさいれき)と呼んでいます)が調査区を間わず多量に出土しており、石器製作技術(せっきせいさくぎじゅつ)を復原するうえで貴重な資料といえます。このほか、石材を持ち出すために割りとられたとみられる大形の剥片(はくへん)がB地区で出土しています。なお、普通の遺跡で見つかるような土器や須恵器はごくまれにしか出土しませんが、これもこの遺跡の特徴といえるでしょう。

まとめ

これまでの調査成果をまとめると次のとおりとなります。

  1. サカイ遺跡・平地山(ひらちやま)遺跡では多量の石器が出土しており、後期旧石器時代〜弥生時代にかけて石器作りを活発におこなっていたことが判明しました。
  2. A地区では、有舌尖頭器(ゆうぜつせんとうき)、局部磨製石斧(きょくぶませいせきふ)や尖頭器(せんとうき)、縄文時代草創期(そうそうき)の資料が出土しています。ここ二上山北麓遺跡群(にじょうさんほくろくいせきぐん)では前2者が少なく、この時期の石器製作址として注目に値します。
  3. 特筆すべき遺構は「サヌカイト採掘坑(さいくつこう)」です。これは基盤層(きばんそう)に含まれているサヌカイト礫を採掘するために掘り込んだものとみられ、採掘活動が縄文時代〜弥生時代にかけて続けられたことが想定されます。

発行 香芝市教育委員会(執筆担当濱野・森川)
印刷 明新印刷株式会社

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