久津川車塚古墳2019年度発掘調査 現地説明会

現地説明会日時
2019年(令和元年)8月30日(土)
調査機関
城陽市教育委員会
調査協力
大阪市立大学、立命館大学

1. ごあいさつ

久津川車塚くつかわくるまづかは、5世紀前半に築造された山城地域最大の前方後円墳です(墳丘長推定180m) 。城陽市教育委員会では史跡整備に伴い、古墳の規模・形態や墳丘構造を明らかにする目的で、2013年度から測量調査を行い、2014年度からは発掘調査を進めています。2014〜2016年度調査では西造り出しの規模や構造だけでなく、埋葬施設の存在が明らかとなりました。また、2017〜2018年度は後円部北西側に取り付く渡り土手の規模と構造を明らかにしました。渡り土手の調査事例は全国的にみても少なく、その構造の一端を解明しうる重要な知見を得たといえます。今年度は後円部規模を明らかにすることを目的に、後円部に4ヶ所の調査区(19- 2・3・5・6トレンチ)を設定しています。

図1 大谷川扇状地と久津川古墳群 1/1.2万
図2 久津川車塚古墳の墳丘と調査箇所 1/2500
図3 2019年度調査区箇所(S = 1/600)

2. 19-2トレンチ

上段斜面、中段テラス、中段斜面、下段テラスを検出しました。
上段斜面では葺石を検出しました。遺存状況は良好で、傾斜変換点において25cm大の基底石を確認しました。また、充填石は15cm大の石材を使用しています。

中段テラスでは礫敷と2本分の埴輪列を検出しました。北端は撹乱かくらんによって失われているため、残存幅は3.4mを測ります。礫敷は3〜8cmの礫を使用しており、捜乱部分を除きおおむね良好に遺存しています。なお、埴輪列では撹乱によって西側が欠落しているものの、2本分を検出することができました。

中段斜面では葺石を検出しました。遺存状況は良好ではなく、墳丘面が一部露出しています。一方で、基底石は残存していませんが、傾斜変換点を検出することができました。

下段テラスでは礫敷と2本分の埴輪列を検出しました。礫敷の遺存状況は良好で、3〜5cmの礫を使用しています。

出土遺物は、円筒・朝顔形埴輪片、家形・きぬがさ形・ゆぎ形・甲冑形埴輪片です。特に上段斜面裾部から集中して出土しているため、これらは墳頂部から転落してきたものと考えられます。また、調査区北側から後世の土師器片、須恵器片が出土しています。

図4 19-2トレンチ模式図(S = 1/150)
図5 19-3卜レンチ模式図(S = 1/150)

3.  19-3トレンチ

上段斜面、中段テラス、中段斜面、下段テラスを検出しました。

上段斜面では墳丘面が露出しており、基底石は残存していませんが、葺石をわずかに検出しました。さらに、上段斜面と中段テラスとの傾斜変換点を検出することができました。
中段テラスでは礫敷と4本分の埴輪列(うち2本欠落)を検出しました。

中段テラス北端は削平されているため、残存幅は3.9mを測ります。礫敷は2〜8cmの礫を使用しており、上段斜面裾部から埴輪列付近までの遺存状況は良好です。また、埴輪列において2本分の埴輪と抜き取り穴を検出しました。遺存している2本のうち、東側の埴輪の径は34cmで、底部から第一突帯までの高さ(底部高)は19cmを測ります。

中段斜面上半は大きく削平の影響を受けており、本来の墳丘面をとどめていません。しかし、斜面下半では葺石の遺存状況は良好で、基底石、石列、充填石を検出しました。斜面裾では35cm大の基底石が3個遺存しています。また、25cm大の石材を使用した石列を検出しました。充填石は10〜15cmの石材を使用しています。

下段テラスでは礫敷を検出しました。遺存状況は良好で、2〜5cmの礫を使用しています。
出土遺物は、円筒・朝顔形埴輪片、蓋形・靫形埴輪片です。特に上段斜面裾部付近から集中して出土しています。これらは墳頂部から転落してきたものと考えられます。また、調査区北端から後世の土師器片(皿)、須恵器片(甕)が出土しています。

4. 19-5トレンチ

中段斜面、下段テラス、下段斜面を検出しました。これらの遺構は、畦の掘り込み等による後世の削平を大きく受けています。

中段斜面では、特に削平の影響が強く、本来の墳丘面はとどめていません。中段斜面から下段テラスに至る傾斜変換は確認したものの、中段斜面裾部の確定には至りませんでした。

下段テラスの幅は現状6.0mを測りますが、削平のため本来の幅はさらに狭まると推定されます。また、南から2本目の畦から、3本分の埴輪列を検出しました。特に、西から2本目の埴輪は遺存状況が良好で、径は29cm、底部高は14cmを測ります。さらに、畦内の墳丘盛土面で3〜8cmの礫を確認しました。他調査区で礫敷を検出したため、本調査区でも同様に礫敷が施されていたと考えられます。

下段斜面では、東側で葺石が良好に遺存しています。斜面の大半では10cm大の石材であるのに対し、調査区下端付近では15〜20cmの石材を使用しています。

出土遺物は、円筒・朝顔形埴輪片です。また、後世の須恵器片が撹乱坑から出土しました。

図6 19-5トレンチ模式図(S = 1/100)
図7 19-6トレンチ(S = 1/100)

5. 19-6トレンチ

上段斜面、中段テラスを検出しました。

上段斜面では葺石の遺存状況は良好ではなく、墳丘面が露出しています。しかし、傾斜変換点においては30cm大の基底石を検出しました。

中段テラスでは礫敷と4本分の埴輪列(うち1本欠落)を検出しました。

礫敷の遺存状況は良好で、2〜9cmの礫を使用しています。特に、傾斜変換点では20cmほどの厚みがあるととを確認しています。また、埴輪列では撹乱によって1本欠落しているものの、遺存状況はおおむね良好です。埴輪列出土遺物は、円筒埴輪片、家形・蓋形埴輪片です。いずれも墳頂部から転落したものと考えられます。(S = 1/100)

調査成果のまとめ

今年度中調査では後円部の上段および中段裾の位置を確認しました。これによって、測量調査でしか推定できなかった後円部規模をはじめて発掘調査によって復元するととができました。いずれも削平を受けているので正確な数値を求めるととができないものの、復元長は中段テラスが約4.1m、下段テラスが約5.5mで、上段径が約66m、中段径が約85.5m、下段径が約110mという各部寸法を得ました。これにより、上段・中段の径を求めることができたばかりでなく、中段テラスに比べて下段テラスの幅が広いことを確認しました。久津川車塚古墳の墳丘築造を考えるうえで、重要な知見を得たといえるでしよう。

さらに、各斜面では葺石を、各テラス面では埴輪列を検出しました。特に19-3トレンチでは、中段斜面裾部付近において後円部主軸に沿う石列を検出しました。このことは、石列の施工が後円部主軸を意識していたととを示す判断材料となり得ます。また、埴輪列においても、径34cm、底部高19cmという久津川車塚古墳では特に大型の埴輸を主軸上に据えていたことは大変興味深い結果となりました。このように、今回の調査は後円部の規模を復元するととができるだけでなく、古墳の構造を解明するうえで、大きな成果を得た発掘調査といえます。

遺構の写真

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OLYMPUS E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-50mm F3.5-6.3 EZで撮影